愛犬「モモの助」

 その日は翌日に控えた海外渡航に向けて、朝から忙しかった。前もって少しず準備しておけばいいのだが、性格でいよいよとなるまで、なかなか重い腰があがらない。何とか午前中で、荷物の最終チェックは終えることが出来た。今夜は成田で一泊し、翌朝の第一便でクアラルンプールに向かう予定だった。
 少し時間ができたので、しばらく別れることになる、愛犬のモモの助を散歩に連れて行った。
 いつもの散歩コースだった。ところが人生、何が起こるかわからない。突然遊歩道の脇から猫が素早い速さで飛び出してきた。その拍子にびっくりしたモモの助がとっさに駆け出し、そして詰まるところのんきにリードを持っていた私が、このアクシデントの被害者になってしまった。私はスッテンコロリン。膝を強く強打した。しばらくうずくまって痛みにうんうん唸っていたが、さて立ち上がろうとした時だった。強打しなかった方の足が変な具合によれていた。なんだ、コレは! 骨折してしまったらしい。もちろん歩くことは出来なかった。
 モモの助はきょとんとした顔で、私の顔を眺めていた。
「どうかしましたか、ご主人」と言うように。私は思わずモモの助に向かって舌打ちし、こ、この馬鹿犬!と悪態をついた。しかしモモの助は行儀良く座って、尻尾を振った。
「こ、この馬鹿犬。褒めてるんじゃないんだよ」
 しかしこれ以上腹を立てても仕方ない。携帯で妻に連絡して、車でお迎えという大層なことになってしまった。そのまま病院へと向かい、結果一週間の安静状態となってしまった!
 予定は大きく狂ってしまった。まずは飛行機のキャンセルから始まり、ホテルのキャンセル、現地の出迎えのキャンセル、そしてそれに関わるすべての予定変更。キャンセルや侘びの電話ですっかり疲れ果て、その夜は病院でぐっすり眠った。
 翌日目覚めたのはすでにお昼近かった。妻が見舞いに来ていて、ベットの傍らに座っていた。食事と今朝の新聞を渡してくれた。
そしてあなた、と神妙に言った。「これ、見て」
 何事かと思ったが、渡された新聞のページを見た。飛行機事故の写真が大きく載っていた。
「あなたが乗る予定だった飛行機だったんじゃないの?」
 私は記事を読んで確認した。私が乗るはずだった飛行機だった。もし乗っていたら今頃は…と思うと背筋が凍りついた。しばらくいろいろ妻と話し合った。やがて妻は腰をあげて、また夕方来るから、と言った。
「わかった」と私は答えた。それから何げに付け加えた。
「モモの助に礼を言っといてくれ」
妻は了解と言うように小さく笑って頷き、病室を後にした。
                    (自作 ショート) 

 
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