うぐいす荘

  早いものでもう7月ですね。私の住んでるところは、毎日雨ばかりです。皆さんのところはいかがですか? 似たり寄ったりだと思います。日本列島はおおむね、今は梅雨。 最近は小説というものをほとんど読まなくなりましたが、読み返して面白かったのでちょっと紹介させて頂きます。アガサクリスティー短編集からの紹介です。時間のある方は読んでみて下さい。(読んだ方もいるかもしれません)気分転換になれば嬉しいです。
うぐいす荘 1

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「いってくるよ」
「いってらっしゃい」

 アリクス・マーティンは、小さな田舎風の門にもたれて、村のほうへ道を歩いてゆく夫の後ろ姿をじっと見送った。
 まもなく夫は曲がり角を曲がって見えなくなったが、アリクスはなおも同じ姿勢で、頭にみだれかかる濃い茶色の髪の毛をぼんやりとなでつけながら、うっとりと夢見るような目つきをして立っていた。
 アリクス・マーティンは美しくはなかったし、厳密にいうと可愛くも無かった。だがその顔、もはやういういしい時期を過ぎた女の顔だったが、晴れやかにやわらいでいて、以前会社に勤めていた頃の同僚には、それと気がつかないだろうと思われるほどだった。
 ミス・アリクス・キングは腕っききのいい物腰の幾分そっけない、あきらかに有能で実際的でてきぱきした、こぎれいな娘だった。美しい茶色の髪を大事にするどころか、ちっともかまわなかった。どちらかというと厚い唇をいつも硬く結んでいた。着ているものはこざっぱりと、良く似合っており、あだっぽいところは微塵も無かった。
 アリクスは人生という厳しい学校を卒業した。十八の年から三十三までの十五年間、速記タイピストとして自活してきた。そのうち七年間は病弱の母を養った。彼女の娘らしい顔のやわらかな線が固くなったのは、生活の苦労のせいだった。
 だがもちろんロマンス、といったようなものはあるにはあった。相手は同じ会社の社員、ディック・ウインディーフォードだった。根は大変女らしい女だったアリクスは、彼が自分を好いていることを、素振りには見せなかったが、ちゃんと知っていた。表面は友達同士で、それ以上ではなかった。ディックはとぼしい給料の中から、無理して弟の学費を出していた。当分の間、結婚などは思いもよらないことだった。それにもかかわらずアリクスは将来を考えるとき、自分がいつかディックの妻になることを、半ば決まった事実と認めていた。二人は愛し合っている、と彼女は思っていたが、彼らは分別のある者同士だった。時間はたっぷりある。なにもあわてるには及ばない。こうして歳月は過ぎていった。
      続く

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